そして今回京都で開催された第三回水フォーラムで主張されたトリックは、前回のオランダ以来の「一人当たり水量」というものである。その国の総水供給量を、その国の総人口で割った数字である。これが減っているから人々が水に困るのであり、ダムなどで水量を確保すべきだという論理である。確かに人口が増加しているのだから、確かに一人当たりの水の量は減っていく。「このままでは足りない」という、一見もっともらしい理由に納得させられる。しかしこれもトリックだ。もし一人当たりの水を、総人口が確保したらどうなるか。農業が一切できなくなる。では逆に、現状の農業が先に取ったらどれだけ残るか。農業が衰退している日本ですら、三分の二の水がなくなる。多くの途上国では、水の70%が農業に利用されている。つまり人々が生活に必要とする水はわずかなものに過ぎず、「一人当たり水量」は架空の数字なのだ。
(中略)
水はワンウェイ容器のように、一回使うと使えなくなるものではないのだ。家庭でも風呂の残り湯を洗濯に使うように、水は何度もリサイクルして使うことができる。質の高いものから順に、カスケード(小さな滝の意=段階的に利用すること)利用すれば、水は「一回限り」で終わるものではないのだ。農業で利用された水にしても、蒸発した分を除いて流れに戻ってくる。
(中略)
これを「一人当たり水量」として、誰もが自分のものとして独占することを前提に計算するのなら、どんなに水が豊富でも足りなくなるのだ。実際、この日本は大変水に恵まれた国のように思うが、データによると水質は全世界第五位だが、その量となると106位に落ちるという。しかし生活実感として、それほど水が不足しているとは思えない。ここに「一人当たり水量」というトリックがある。私たちは全世界で106位に数えられるほど水に困ってはいない。水は社会全体で使われ、しかも循環利用されているからだ。
引用元:第7回 「一人当たり水量」というトリック
世界水フォーラムへのこんな批判を見つけた。田中優の「もうひとつの未来」──分散型社会に向けての1コラムだ。
一読して、もっともな批判と思ったが、どうも引っかかった。
仮定1
ひとりあたり1日5リットルの水が必要だとする。
仮定2
サヘル北部に 300人の村が3つ(計 1,200人)で共同利用している井戸があるとする。
必要な水量は 300×3×5 = 4,500リットル/日となる。
この井戸は 250リットル/時間の水の供給量があるとする。
250×24 = 6,000リットル/日だ。
これなら問題がないのだろうか。
農業に必要な水量は、生活用水よりはるかに多い。
2〜3倍以上だと言われる。灌漑をしたらもっと多くなるだろう。
湿度が20%以下の日が続く乾期のサヘルで、水面からの水の蒸散量は並大抵でない(面倒なので計算省略)。
家畜も飲料水を必要とする。
しかしサヘル北部は、物質循環(JICAの牛木久雄国際協力専門員からその概念を教えていただいた)が輪になりにくい。
ここでは、水のカスケード利用は困難(ほぼ不可能と言っていいだろう)だ。
だから、人間が1日5リットルの水を使うと農業や牧畜に回せる水の量はたった 1.25リットル( (6,000-4,500)/1,200 )の水では、農業も牧畜もできない。
そしてもうひとつ、水道の利用に慣れた私たちが見落としやすいことがある。
井戸は24時間同じように使われるわけではないのだ。
生活用水は、仕事の合間を縫って、朝早くあるいは夕方に汲まれることが多い。
だから実情は、朝と夕方の数時間で1日に必要な水量の半分以上が汲まれることになる。
そうすると、たとえば朝晩の合計6時間では 300人分(30〜60世帯くらい)、ひとつの村の分しか水が賄えない。
水道のように蛇口をひねったら好きな時に水が出てくるわけではない共同井戸を使っている地域では、集中した時間帯に、時間あたりの供給可能水量を以上の水量が必要になるわけだ。
先の文章で述べられている「一人当たり水量」がどれくらいのものなのかわからないが、私の頭にある、生存に最低限必要な「一人当たり水量」5リットルとはまったく違う数字なのだろう。
もしある地域の水の供給量がひとりあたり5リットルを下回っているなら、そこは絶対に水量の確保をすべきところだから。
さらに井戸を使っているところなら、1日の供給量だけの単純計算では意味をなさない。
農業や牧畜などが生活基盤になっているところでは、カスケード利用が難しいので、「清潔な水」でなくともそれ以上の水が確保できなくてはいけない。
そして、供給可能な水量に相対的な順位をつけることにはまったく意味がない。
以上の点が考えてみると、私の引っかかったところだったようだ。
サヘルの自然を基準に、1日5リットルの水を「一人当たり水量」としてあのコラムを読んではいけなかったのだろう。
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