引用元:L'actualite´ avec l'AFP : Elections municipales le 23 mai au Mali
2002年5月に ATT (Amadou Toumani Toure´) が大統領に就任して、初めての地方選挙です。
サヘル地方らしく(?)、日程は4月25日から5月23日に延期されたこの地方選挙の過程と結果を興味深く見守っています。
マリでは民主化と地方分権化が推し進められています。
ボトムアップによる地域住民主体の行政改革、そして暮らしの向上は嬉しいことです。
しかし、マリだけでなく広くサヘル地域で、民主化とか地方分権とか資本主義システムは、欧米の概念をそのまま導入できないことを忘れてはいけないと思います。
また、急激な変革は、それがどのように安定した形に落ち着くのか見届けるまでには、長い道のりが必要です。
たとえば、トンブクトゥ地方のトゥアレグ社会は、貴族、臣下、奴隷、鍛冶(名称は欧米的概念にとらわれすぎていて問題が多いのですが、とりあえず一般化している和訳名称を挙げておきます)などの社会的階層があります。
これまでは上のような伝統的ヒエラルキーが重視され、地方選挙においても力の強いグループの首長が、地方議員に選ばれてきました。
行政による住民管理も、やはり伝統的なシステムを利用して、エスニックグループやそれを基礎とした居住グループを単位としてきました。
しかし、1990年代後半からの地方分権化の流れの中で行政は、コミューン(市)という地域区画で住民管理を始めました。
ところで、ニジェール川やその支流による湖沼の多いトンブクトゥ西部地域は耕作可能地域が広く、ほかの地方のトゥアレグ社会に比べてはるかに農業に従事する「奴隷」階層が多いのが特徴です。
そのため、選挙による市長や議員の選出では、数の論理によるマジョリティである奴隷層が圧倒的な力を持つようになりました。
これにより、かつての貴族層と奴隷層の社会的な立場の逆転が起こりました。
職業や出生による差別なく誰もが平等に人権を有するのは最低限のことです。
しかし、旱魃の起こりやすい不安定な自然環境の中で生存するために、長い歴史の中で工夫された社会的機能が突然無効化されてしまったら、力のない人々が生き延びるすべはあるのでしょうか。
地方分権化によるサヘル地域の新しい社会システムの中にも、欧米の古い経済理論や資本主義的な仕組みと異なった伝統的な「助け合い」の仕組みが、できるだけ早く形作られることを願ってやみません。
トンブクトゥ地方の、今回の地方選挙は、そんな思いを込めて見ているわけです。
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