朝起きると、雪が雨に変わるところだった。
庭の木々は雨に打たれ、明けていく朝の光に映えて、枝についた水滴が線香花火のように膨らんでは落ちてゆく。
しっとりと濡れた枝から落ちてゆく水滴を見ていたら、モプティの草いきれを思い出した。
マリの首都バマコから、約1,200km北東の町ガオまで続く幹線道路がある。
この道を北上していくと、マンゴの林や、シアバターの木の下に広がるソルガム畑が次第に減ってゆき、風景が緑から白へと変わって行く。
バマコから約630kmほどの中間地点にあるモプティは、幹線道路とニジェール川と接する川と陸の交通の十字路の町だ。
雨期には町の周囲は氾濫した水に満たされるが、乾期には、ひからびた土漠の中に取り残された土埃の舞う町となる。
活気のある町だが、暑く乾いた空気が吹き抜け、強い日差しが川面に反射し、日干し煉瓦のモスクを見上げると、いよいよサハラの入り口まで来たんだ、という実感を誰もが持つだろう。
しかし、トンブクトゥやガオなど北部で暮らし、ここまで下りて来た時、モプティで受ける印象はまったく違う。
乾期でも、強い草いきれが鼻腔の奥に染み渡る。日差しの柔らかさと水の存在を、五感でひしひしと感じる。
モプティに着く度に、「ああ、こんなにも水と植物に満たされた世界があったんだ」と深呼吸したものだった。
私は、トンブクトゥから日差しに焼かれ、埃まみれになってたどり着くモプティがなにより好きだった。
水浴びをしてサハラの砂を落とし、ニジェール川のほとりの木陰で、ゆったりとした流れを見ていると、いつまでもそこに佇んでいたかった。
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