ニジェールのHama Amadou首相が、「大規模な食料援助はもういらない」と発言したというBBCの記事がありました。
その記事ひとつでは、首相の真意をちょっとつかみかねています。
そのため、首相の発言の意図を間違ってとらえているかもしれませんが、とりあえず思ったことを書き留めておきます。
A large part of the country has already harvested its crops and is already eating them(国内の大部分で既に収穫が行われ、人々の口に入っている)
Between now and the end of September the harvest will be completed. We're happy that these crops are of good quality and that the people of Niger will no longer need any food aid(9月末までに収穫は終わるだろう。穀物は良い出来で、ニジェールの人々への食料援助がもう必要なくなることを嬉しく思う)
これらの首相の説明は、前半は事実でしょうが、後半(太字)は本当にそうだろうかと疑問に思いました。
Our dignity suffered. And we've seen how people exploit images to pledge aid that never arrives to those who really need it.(我々の尊厳は苦境に立たされている。我々は、本当に必要な人々に決して届かない援助のために[干ばつの]イメージを人々がいかに利用しているか見てきた)
首相自ら述べられているこの後半の事実が、ニジェールの問題の核心ではないでしょうか。
そして、ニジェールの人々の尊厳は、必要な人々に本当に必要なものが行き届くシステムを作ることでこそ守られるものではないでしょうか。
首相の発言には、大いに共感するところもあります。
援助する側、報道する側が、人間の尊厳を考える上で、無意味な競い合いや対象の過度のイメージ化(単純に悲惨さを訴える手法)について、反省し、議論すべきことは限りなくあるでしょう。
この記事あるいはdevelopment pornographyという指摘は考えさせられます。
今回の首相の発言は、援助する側が襟を正して耳を傾けるべきものでしょう。
首相の、自立のために外からの援助と縁を切ろうという姿勢は非常に素晴らしいと思います。
しかし、
・今年に限らず、乳幼児の死亡率が世界で2番目に高い
・市場に穀物はあるが、貧しい人たちには買えないような高い値段で出回っている
などの今のニジェールの状況下で、食料援助「だけ」を止めることが事態を好転させるのか、大いに疑問に思います。
また、
The UN's World Food Programme maintains that cutting aid now will allow food prices in Niger to normalise after escalating during months of severe shortages.
と述べていますが、今のニジェールの状況で、穀物援助を止めれば、穀物の価格は元に戻るのでしょうか?
このロジックについてどなたか教えていただけませんでしょうか?
穀物援助の量にかかわらず、収穫期を迎えて穀類の自給率が実際に高くなれば、その価格は自然にさがっていくのではないでしょうか。
対処療法としての食料援助でなく、根幹治療として、「援助漬け」「他者依存」というニジェールの体質を変え、ニジェールという国家の尊厳を取り戻すには、ニジェールの政治や行政のシステムを根本的に考え直すことこそ必要なのではないでしょうか。
尊厳を取り戻すこと、あるいは自立が、穀物の値段が高くて買えない死と隣り合わせの幼児・老人を抱える貧困層の人々の「痛み」を伴うものであるなら、それは何のための自立なのでしょうか。
一国の責任者には、何にもまして弱者のことを考えてほしいといます。
BBCの記事を全文引用しておきます。
Niger's prime minister says he agrees with UN plans to end large-scale food aid, which he described as an affront to the country's dignity.
"A large part of the country has already harvested its crops and is already eating them," Hama Amadou said.
The UN had announced it would only concentrate on those most in need once harvesting had started.
But the aid group MSF has warned that with almost a million people not yet fed, it is too soon to stop aid.
Medecins Sans Frontiere says that this could put many mothers and children in particular at risk.
'Dignity suffered'
"Between now and the end of September the harvest will be completed. We're happy that these crops are of good quality and that the people of Niger will no longer need any food aid," Mr Amadou told the BBC's French service.
He said it was necessary to stop the aid so that Niger does not become reliant on aid and he lashed out at donors.
"Our dignity suffered. And we've seen how people exploit images to pledge aid that never arrives to those who really need it."
The UN's World Food Programme maintains that cutting aid now will allow food prices in Niger to normalise after escalating during months of severe shortages.
Challenge
The WFP faces huge logistical challenges moving food aid vast distances on poor roads.
But the BBC's Hilary Andersson in Niger says that almost a million people who need it have still received no food aid at all and it is now six weeks since the aid began flowing into Niger in large quantities.
She says that large numbers of young children are still dying in feeding centres. An assessment by MSF this week indicates that more than 40 people a day are dying in just one area that they surveyed.
With malaria and other diseases now prevalent in the feeding centres, due to the rains, doctors say many of the malnourished are in a worse condition than they were a month ago.
Niger is ranked the poorest country in the world and has suffered years of neglect by the outside world.
引用元:BBC NEWS |Africa | Niger food aid 'no longer needed'
参考URL
援助とイメージ
- Reuters AlertNet - NGOs still fail standards on appeal images
- Reuters AlertNet - Aid workers lament rise of 'development pornography'
- Imaging Famine
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- うさぎもたまには考える
- ささぐま(ほとんど酒熊)のごたくせん: <ニジェール>「援助いらない」と、国連やNGOに撤退要求
- 再びニジェール|memory cell
- 食料援助は、「必要」か「必要でない」のか|ダメ男なディレクターの妄想日記
- <ニジェール>「援助いらない」と、国連やNGOに撤退要求 (毎日新聞)
ニジェールの状況には不案内で申し訳ないのですが、外国からの食糧援助が、その土地の農民の生産意欲を大きく損ねることはよくあります。食料不足が国内の紛争、インフラ欠如、意図的な低価格での農作物買取価格(都市部の住民への補助金)などの結果、という面もよくあります。とはいえ、緊急援助の撤退は難しい決断が必要でしょう。
ここのブログでの解説は面白かったです。
http://skasuga.talktank.net/diary/archives/000182.html
投稿情報: どら | 2005年9 月22日 (木) 06:20
初めまして。TBさせていただきます。
ニジェールの首相の嘆きがダイレクトに伝わってくる発言ですね・・・
投稿情報: blue | 2005年9 月23日 (金) 13:59
はじめまして。TBさせていただきました。
いつも興味深く拝見しています。ワークキャンプでタンザニアへ行ったのをきっかけに、こちらのサイトにお邪魔するようになりました。
息子さん、無事に到着されたようで何よりです。^^
Amadou首相の発言について真意をはかりかねていたので、リンク記事・解説とも参考になりました。
首相の懸念も理解できなくはないのですが、現実に飢えに苦しんでいる人々がいる以上、人道援助を止めるべきではないと思います。
そもそも理想論としての人道支援は決して国家の尊厳を脅かすものではないように感じるのですが、、これまでの援助のあり方に問題があったことの裏返しなのでしょうね。
投稿情報: Chieee | 2005年10 月 3日 (月) 10:55